一九八二年から雑誌『アニメージュ』に連載され,映画版の制作を挟み九四年に完結した,宮崎駿の長編マンガ,『風の谷のナウシカ』.この作品の可能性の種子は,時代の喘ぎのなか,いま,芽生えと育ちの季節を迎えようとしているのかもしれないーー.多くの人に愛読されてきたこのマンガを,二十余年の考察のもと,一篇の思想の書として徹底的に読み解く.
はじめに
第一章 西域幻想
1 秘められた原点
アニメとマンガのあいだ
はじまりの風景から
宮崎駿の種子をもとめて
2 神人の土地へ
小さな谷の王国
旅立ちのときに
奴隷とはなにか,という問いへ
第二章 風の谷
1 風の一族
部族社会としての風の谷
腐海のほとりに暮らす
風車とメーヴェのある風景
2 蟲愛ずる姫
背負う者の哀しみとともに
ギリシャ神話のなかの原像
血にまみれた航海者との出会い
3 子守り歌
孤児たちの物語の群れ
あらかじめ壊れた母と子の物語
擬態としての母を演じる
4 不思議な力
物語られる少女の肖像
境界にたたずむ人
王蟲の心を覗くな,という
第三章 腐 海
1 森の人
水と火と調和にかけて
火を捨てて,腐海へ
世界を亡ぼした火とともに
2 蟲使い
たがいに影として森に生きる
武器商人から穢れの民へ
森が生まれるはじまりの朝に
3 青き衣の者
ふたつの歴史の切断があった
邪教と予言が顕われるとき
犠牲,または自己犠牲について
4 黒い森
腐海の謎を読みほどくために
第三の自然としての腐海
喰う/喰われる,その果てに
第四章 黙示録
1 年代記
年代記と語りと声と
いくつかの歴史語りが交叉する
文字による専制が産み落とした偽王たち
2 生命をあやつる技術
悪魔の技の封印がほどかれる
帝国を支える宗教的呪力の源泉として
対話篇,シュワの庭にて
3 虚無と無垢
呪われた種族の血まみれの女
内なる森を,腐海の尽きるところへ
名づけること,巨神兵からオーマへ
4 千年王国
千年という時間を抱いて
墓所の主との言葉戦いから
物語の終わりに
終 章 宮崎駿の詩学へ
おもな参考文献
あとがき