北極の永久凍土に眠るゴーストタウンと”ピラミッド”
軍艦島、プリピャチに匹敵する、謎の北極廃墟ピラミデン。
「この街は死んでいない。赤の広場に保存されたレーニンのように、
生きたままの姿で氷河と共に眠り続けている」
北極点までおよそ1000km。かつて人類が暮らす世界最北の街であったピラミデン(Pyramiden)は、
1991年、ソビエト連邦崩壊と共に人々が姿を消し、いまは世界最北のゴーストタウンとなった。
神秘的な名前に負けぬその異様な光景は、ここを訪れるすべての人々を無言のまま圧倒する。
街の背後に控える壮大な氷河と、毅然と立ち並ぶ社会主義的な住宅群。
ソ連らしい無骨な建物は学校や病院、精肉工場から幼稚園まで、それぞれに明確な役割があり、さながら街自体が自己完結する回路のごとく、理路整然と配置されている。
まるで映画撮影で造られたセットのような、どこか虚構めいたその街並みは、
北極という圧巻の自然の中にあるがゆえに、「人工物」の異様さを一層際立たせる。
そして街を周回する、10月革命60周年記念通りの突き当たりには、
システム全体を統括する頭脳のごときレーニン像が、
いまも無人の街に睨みを利かせている────。
装丁:大島依提亜