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『認識問題』、『シンボル形式の哲学』などの大著を完成したエルンスト・カッシーラー(1874-1945年)が、ナチスが台頭し、第2次世界大戦に向かっていく状況の中、最晩年に至ってついに手がけた記念碑的著作。国家という神話は、どのようにして成立し、機能するようになるのか。独自の象徴(シンボル)理論に基づき、古代ギリシアから中世を経て現代にまで及ぶ壮大なスケールで描き出される唯一無二の思想的ドラマ!
本書は、ドイツの碩学エルンスト・カッシーラー(1874-1945年)が最晩年に手がけた記念碑的著作、待望の文庫版である。
新カント派に属して哲学、文学、歴史学を学んだカッシーラーは、現代文明の土台をなす近代科学の構造とその基礎概念の認識批判的な研究『実体概念と関数概念』(1910年)で経歴を開始した。だが、当の現代文明は、程なく第1次世界大戦という破局をもたらす。この現実を前にして、大戦で争われていた精神的価値に対する態度表明を行う『自由と形式』(1916年)を発表したカッシーラーは、その一方で、大著『認識問題』全4巻(1906-50年)、そして主著『シンボル形式の哲学』全3巻(1923-29年)に取り組んだ。
しかし、世界は再び大戦に向かって突き進んでいく。祖国ドイツでは1933年にナチス政権が誕生し、独裁が強化される。その支配が頂点を迎えつつあった1941年、ついにカッシーラーはそれまで正面から扱うことがなかった「国家」という主題に取り組むことを決意した。
過去の著作で確立された象徴(シンボル)に関する理論に基づきつつ、本書は国家を「神話」として解読していく。その射程は、古代ギリシアから中世を経て、マキアヴェッリ、ロマン主義、ヘーゲルから現代に至る、きわめて広大なものである。独自の理論を構築した哲学者であるとともに第一級の思想史家でもあったカッシーラーにして初めて書き上げることができた本書は、新たな危機に向かっているように見える今日の世界の中で、何度でも精読されなければならない。
政治学・ヨーロッパ思想史の大家が手がけた翻訳が、半世紀以上の時を経て、全面改訂と新たな解説を加えた文庫版として登場。
第一部 神話とは何か
第一章 神話的思惟の構造
第二章 神話と言語
第三章 神話と情動の心理学
第四章 人間の社会生活における神話の機能
第二部 政治学説史における神話にたいする闘争
第五章 初期ギリシア哲学における《ロゴス》と《ミュトス》
第六章 プラトンの『国家』
第七章 中世国家理論の宗教的および形而上学的背景
第八章 中世哲学における法治国家の理論
第九章 中世哲学における自然と恩寵
第十章 マキャヴェッリの新しい政治学
第十一章 マキャヴェッリ主義の勝利とその帰結
第十二章 新しい国家理論の意味
第十三章 ストア主義の再生と《自然法》的国家理論
第十四章 啓蒙哲学とそのロマン主義的批判者
第三部 二十世紀の神話
第十五章 準 備:カーライル
第十六章 英雄崇拝から人種崇拝へ
第十七章 ヘーゲル
第十八章 現代の政治的神話の技術
結 語
訳 註
訳者解説
学術文庫版訳者あとがき
人名・作品名索引