逃げたいときもあった。妻であることからも、母であることからも。
夫を亡くしたあと癌で逝った実母と、高齢の夫と暮らす認知症急速進行中の義母。「ふたりの母」の生きざまを通して、ままならない家族関係を活写するエッセイ。
婚約者として挨拶した日に、義母から投げかけられた衝撃の言葉(「義母のことが怖かった」)、実母と対面したあとの義母の態度が一気に軟化した理由(「結婚式をめぐる嫁姑の一騎打ち」)、喫茶店を経営し働き通しだった実母の本音(「祖父の代から続くアルコールの歴史」)、出産時期と子どもの人数を義父母に問われ続ける戸惑い(「最大級のトラウマの出産と地獄の産後」)、義母の習い事教室の後継を強いられる苦痛(「兄の遺品は四十五年前に母が描いた油絵」)など全14章で構成。
義父や義母の介護をしながら時折居心地の悪い気持ちになることがある。実母に対して何もしてあげられなかったのに、あれだけ長年私を悩ませた義父母の介護をするなんて、これ以上の皮肉はあるだろうか。
(本書「結婚式をめぐる嫁姑の一騎打ち」より抜粋)