足かけ五〇年に近い年月を、明治・大正・昭和の三代にわたって、ただまっしぐらに書き続けてきた花袋の底に張られる強力なる線、それは「無類の正直さ」であろう。かれは、人生の奥底を、正直な目で見つめ、自己の欲求を正直に示して、その生涯を貫いた。それは、利己的にも愚直にも見えたかもしれないが、かれが自己を愛し、そこから自然主義小説、宗教小説、歴史小説、紀行文が生み出されたとき、より次元の高いものへと昇華されていった。その全てが花袋の真実の声の吐露である。
死して八○年余。利根川のほとりを歩むとき、かれの作風のいまだ新鮮なるに驚きの声を発するのである。
目次(内容と構成)
第一編 田山花袋の生涯
没落士族
上京(一)
悲しみの館林生活
上京(二)
三度の館林生活
上京(三)
暗闇のなかの青春時代
文壇へー狭き門をたたいて
自然主義の旗手
愛の変遷
第二編 作品と解説
重右衛門の最後
蒲団
生
田舎教師
時は過ぎゆく
一兵卒の銃殺
ある僧の奇蹟
東京の三十年
近代の小説
源義朝
百夜
年譜
参考文献
さくいん