おなじ光をみていたーー
夕暮れを染める一瞬の不思議な輝きが、ふたりを結び付けて離さない。
成熟した男女が行き着くのは、後悔か、希望か。
至高の愛を描く恋愛小説。
直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』から14年。
折り重なる出会いの神秘を問う白石恋愛文学の到達点。
「あなたのせいで万引きと間違えられてるの。あなたが三日も帰ってこないから」
込み入った事情は不分明だが、俺はことさら丁寧に男に頭を下げる。
「うちの妻が、どうやら誤解をさせるような行動を取ったようで……」 (本文より抜粋)
スーパーの人気商品を盗んだ野々宮志乃は、万引きGメンから声をかけられる。咄嗟に志乃は、店の駐輪場にいた箱根勇に、「あなた」と夫のごとく呼びかけた。勇は反射的に夫婦を装い、志乃を助けて……。夫に先立たれた四十代販売員の志乃と、不倫が原因で離婚した五十代会社員の勇。親しげな言葉を交わすようになったふたりは、断ち切れぬ絆を感じる。傷を抱えた大人たちが辿り着いた場所とはーー。