「目では分からない世界の奥行きが、耳には分かる」
谷川俊太郎の最新詩集は「聴く」ことをめぐる、心にしみるアンソロジー。
初期の作品から本書のための書き下ろしまで、60年を越える詩業から選び抜かれた46の詩とエッセイが、言い交す声に、川の瀬音に、弦の調べに、静けさに耳をすますことを勧め、時に自分の耳を信じるな、と警告する。
本詩集はまた、作者が「私にとってなくてはならぬもの」と言うクラシック音楽へのオマージュでもある。モーツァルトが、ベートーベンが、友人、武満徹がうたわれる。
「聴く」ことは作者の原点。自在、多彩な言葉が織りなす豊穣な世界がここにある。
創元社からの刊行は、デビュー作『二十億光年の孤独』、翌年の『62のソネット』以来、じつに65年ぶり。
[もくじ]
[もくじ]
物音
クラヴサン
波の音を
和音
ピアノを開く時
ただそれだけの唄
53(影もない曇った昼に)
26(ささやかなひとつの道を歩き続けると)
きいている
三月のうた
〈永遠に沈黙している限りない青空の下の〉
スキャットまで
ピアノ
空耳
〈沈黙を語ることの出来るものは〉
鳥羽9
ひとり
音楽のように
奏楽
ケトルドラム奏者
音楽のとびら
あのひとが来て
おまえが死んだあとで
よろい戸の奥
なんにもしたくない
耳と目
生きとし生けるものはみな
風景と音楽
夜のラジオ
聞きなれた歌
ないしょのうた
魔法
泣いているきみ
聴く
「音の河」 武満徹に
〈武満徹は好きな絵は仕事場には置かなかったそうだ〉
音楽
このカヴァティーナを
音楽ふたたび
モーツァルト、モーツァルト!
〈夜、ひそかに人が愛する者の名を呼ぶ時〉
夕立の前
音楽の前の……
八ヶ岳高原音楽堂に寄せて
音楽の時
河原の小石
あとがき