ーーこれが、ぼくの虎。
あれは、だれが口にした言葉だろう。5年ぶりに戻ってきた、リアス式海岸の海と緑の町。震災の傷を残したこの地で真莉愛は自身の記憶のカケラを追うことになる。
母方の祖母の家に越してきた小学6年生の真莉愛。5年前に大きな地震があった町で、母と祖母との3人暮らしが始まる。真莉愛は、この町で幼いときに出会った「まさき」という男の子のことが気にかかっていた。しかし、まさきが5年前の震災で亡くなっていたことを知り、真莉愛は静かに衝撃を受けるのだった。もう二度と会うことはできない。まさきのことをだれが覚えているのだろう。わたしはまさきのことを考えたい。離れてくらす父との記憶が薄れていく寂しさを抱える真莉愛だからこそ、まさきの記憶は手放してはならないものとして立ち上がってくるのだった。
震災で失われたいのちに向き合う物語。