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農村政策の変貌(ノウソンセイサクノヘンボウ) |
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ポストコロナ社会における国民の農村志向という動きのなかで、新たに作り出していく地方・農村政策論
農村政策が急速に変貌しようとしている。
農水省は、昨年策定した2020年食料・農業・農村基本計画のなかで、「地域政策の総合化」を打ち出した。これまでの農政は、「産業政策と地域政策を『車の両輪』とする」としながらも、農地バンクを通じた農地集積や農産物輸出促進に見られる産業政策に大きく傾斜し、農村政策は空洞化していた。「地域政策の総合化」はこうした状況からの農村政策の再建の意欲を、農水省自らが示したものである。
しかし、幅広い具体的な諸政策を踏まえて、「総合化」する場合の原理は何か。縦割りの行政や同様の性格を持つ学界から、それが語られることはほとんどない。本書では、農村政策の理論や農村実態の詳細な分析を行うと同時に、中山間地域等直接支払制度はもちろん、農水省以外の省庁による地域おこし協力隊、小さな拠点、ふるさと納税、過疎法等について幅広く、しかも現場の取り組みを前提に、この課題に接近する。
そして、その原理として明らかにされたのが、「格差是正と内発的発展促進の二兎を追う」である。農村政策はともすれば、この両極にフレやすい。例えば、小泉構造改革の際には、「もはや格差是正の時代ではない」と言われ、「内発的発展」」という名目で自助努力が論じられた。その後の揺り戻しの時期は、さかんに「限界集落」対策が格差是正の象徴とされた。こうした振幅は今も続く。しかし、重要なのは、この両者を両立させ、そのバランスを取ることであろう。
実はそれを具体化し、農村現場の叡智によりそのバランスを追求しようとしたのが、2000年から始まった中山間地域等直接支払制度である。この制度は、そもそも条件不利地域における格差是正策として始まったが、集落協定をつくり、話し合いにより、交付金の一定部分を地域づくりに活用する仕組みとなっている。本書でも、この制度は多角的に分析され、特に制度スタート時の農村現場のチャレンジが活写されている。格差是正のための交付金を、地域の内発的エネルギーにより活用し、多彩な地域づくりを実践する地域の姿は印象的である。
このような状況を、田園回帰や関係人口が活発化し、そしてポストコロナ社会における国民の農村志向という動きのなかで、新たに作り出していくことが、いままさに必要とされている。その全体像や具体像を地域の人々(農業者、集落協定リーダー、自治体職員、中間支援を行うNPO職員)ともに考えたい。
第1部 農村問題の理論と政策─その枠組みと再生への展望
第2部 農山村の変貌
第3部 中山間地域等直接支払制度の形成・展開・課題
第4部 農村政策の模索と展開─動き出した諸政策
第5部 地方創生下の農村─動き出す人びとと地域