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タイトル |
PTSDの医療人類学 新装版(ピーティーエスディーノイリョウジンルイガク) |
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「私たちの知らない太古から、人類は、悲哀と悔恨の感情、とりかえしのつかない喪失感、戦慄と恐怖の感覚などの記憶にさいなまれてきた。しかし、19世紀以後100年のうちに新しい型の苦痛な記憶が出現した。これがそれ以前の記憶と違うのは〈外傷性〉という、それまで同定されていなかった心理状態を発生源とし、これまたそれ以前には知られていなかった型の忘却である〈抑圧〉と〈解離〉とにリンクしていることである。この新しい記憶が今日もっともよく知られているのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という精神の病いと結びついている場合である。」
PTSDは1980年、アメリカ精神医学会がその公式疾病分類(DSM-III)に採用して以来、急速に注目されるようになった。それまで少数の精神科医だけが口にしていたこの言葉は、今日では結核やマラリアなみに一般公衆の知るところになり、映画や小説の題材になり、天災人災を扱うテレビや新聞記者の主要問題になった。だが、PTSDとは時代を越えた障害、また単一の障害実体なのだろうか。歴史の所産なのではないだろうか。気鋭の医療人類学者が、鉄道脊椎、ヒステリー、シェルショックなど外傷性記憶の起源から、DSM-IIIの検証、現在の「国立PTSD治療センター」の実体調査にいたるまでを詳細に描き、PTSDの可能性と問題点を明確に示す。
謝辞
序説
日本版のための1999年の序説
第一部 「外傷性記憶」の起源
第1章 「外傷性記憶」の成立
外傷性恐怖/ジャン=マルタン・シャルコー/恐怖の構築/自己継続性を示す障害/外傷と記憶/病原性秘密/ピエール・ジャネ/ジークムント・フロイト/外傷性記憶、1914年
第2章 第一次世界大戦
暗示の持つ強い力/ジョン・ヒューリングズ・ジャクソンの亡霊/戦争神経症を診断する/機能的疾患とは/ヒステリーと詐病/将校と下士官・兵/原始感覚的なものの回帰/リヴァーズの化粧直し/記憶、除反応、暗示/オートグノシス(自己認識)/ジークムント・フロイトのその後の考え/リヴァーズの遺産/結論
第二部 外傷性記憶の変容
第3章 DSM-III革命
疾病分類の標準化/信頼性と妥当性を算定する/PTSDはいかにしてDSM-IIIに入ったか/戦争関連PTSD/診断基準/結論
第4章 外傷的時間の構造
ポリテティックな分類/症状の表象力/自然種とは/外傷性事件のさまざまの意味/集団的記憶/時間と因果律/1994年の外傷性記憶
第三部 外傷後ストレス障害の実際
第5章 診断のテクノロジー
診断容易症例/昂然海兵隊員症例/メタファー的事件症例/曖昧事件症例/PTSDを語る
第6章 精神科病棟における日常生活
センターとその使命/イデオロギーと抵抗/イデオロギーと語り/態度の問題/心理道徳性(psychomorality)
第7章 PTSDを語る
国立戦争関連PTSD治療センター、1986年/国立戦争関連PTSD治療センター、1987年
第8章 外傷性記憶の生物学
時には意味あり/精神医学を(再)生物学化する/外傷性記憶の神経生物学/PTSDの神経生物学/デュエムの命題/PTSD患者における尿中遊離コルチゾン/PTSDにおける戦闘関連刺激に対するナロキソン可逆性痛覚消失反応/無言語記憶/納め口上(エピローグ)
結論
訳者あとがき
引用文献
事項索引
人名索引