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タイトル |
新装版 治療論からみた退行(シンソウバンチリョウロンカラミイタタイコウ) |
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本書は,力動的立場をとると否とを問わず,「境界例」をはじめ困難な精神科臨床にたずさわる人々に欠くことのできない実践的英知と心構えを示すものである。
著者バリントは,欧米ではじめて土居の「甘え」理論を取りあげた学者として知られ,、また内科医との共同作業による心身医学の領域でも名高い,しかし彼は1920年代にはやくも対象関係に注目し,ブダペシュトからイギリスに移ってからはその地に興った対象関係論の推進者としても活躍をつづけた。とりわけフロイトの古典分析の限界を超える患者の治療を志して途半ばに倒れた師フェレンツィの遺志を継いで,そのような患者の特徴を対象関係論的に「基底欠損」と把え,その治療論を展開,従来否定的な面のみが論じられていた「退行」の治療的意義をも発見する。
該博な知識と言語に対する深い造詣で知られる訳者を得て,本書は近年とみに重要性を強調される重症患者への精神療法的接近に新しい視野を拓いてくれるであろう。