怒れる迫害者あるいは弱き幼き子として、虐待・暴力から生き延びるために解離した「私」の痕跡たち……彼ら内なる他者との対話を始めるために治療者には何ができるのか?
解離された自己状態は、解離性障害のみならず、境界性パーソナリティ障害、さらには健康度の高い神経症の患者においても経験され、そこでは解離がスプリッティングや葛藤として体験されている。ハウエルが拠って立つ関係論志向のアプローチでは、他者との対人関係から心の構造を理解しようとし、個人の病理は患者の主体と他者の主体との関係から生じ、治癒過程は患者の主体と治療者の主体の相互関係によって促されると考える。症例呈示、ヒステリーの歴史、精神分析、脳科学、夢体験、鑑別と併存、治療など、幅広く解離の全体像を描き出し、ミラーニューロンからポージェスの多層迷走理論、動物の防衛反応、ショアの右脳による暗黙のプロセスまで多彩な神経生物学的研究に言及し、さらに内的家族システム療法、カープマンのドラマ三角形、催眠療法、イメージ療法などについても紹介して、精神分析の枠を越えた様々な精神療法の試みをバランス良く提示している。
サンクチュアリを確保する「段階的治療」と交代者の内なる対話を起動する「関係論志向の統合的技法」からなる、解離治療技法の決定版。
第1部 解離性同一性障害を理解する
1-解離性同一性障害を有する三人の人生と精神療法
2-力動的無意識と心の解離構造
3-「(私のなかの)私たち」--解離性同一性障害における人格構造
4-トラウマ障害としての解離性同一性障害
5-解離した自己状態、トラウマ、無秩序型アタッチメント
6-解離された自己状態の構造と精神力動に関連する神経生物学的研究
7-解離した自己状態ーーその生成と文脈化
第2部ー解離性同一性障害を治療する
8-解離性同一性障害のアセスメントと診断
9-段階的治療
10-治療における共意識と共参加の促進
11-迫害的交代者との治療作業と攻撃者との同一化
12-治療的関係ーー共同構築の多次元
13-解離性同一性障害における夢
14-解離性同一性障害における自殺傾向
15-併存疾患と見せかけの併存疾患ーー重度で硬直した心の解離構造によって生じる問題