仏敵デーヴァダッタ、バラモン教の六師外道との対話に尽くされるブッダの根本思想。宇宙と自我の同一、アラーヤ識などブッダの思索の奥義を窮める積年の労作。
この作品はわたしにとって最後の長篇となるだろう。(…)高校生の時に最初の作品を『文藝』誌に掲載していただいたことから始まって、それから六十年近い年月にわたって小説を書き続けてきた。書くことはわたしの生業ではあったが、同時につねに探究していたのは言葉の限界と、その限界を超えたところにある一種の存在論のごときものであった。人生の最後にその存在論というテーマと向き合えたことに、静かな達成感を覚えている。--「あとがき」より