現代の生殖医療では、人工授精などで人間の卵子を取り扱うことが日常的に行われている。しかし、ここに至るまでには発生学の長い歴史があった。そもそも哺乳類の卵というものが知られるようになったのは、わずか二〇〇年ほど前のこと。その発見者こそが、カール・エルンスト・フォン・ベーア(Karl Ernst von Baer:1792-1876)であり、近代発生学の始祖と言ってよい人物である。『種の起源』でも、ダーウィンが尊敬をこめて言及している。再生医療や進化発生学の原点を創出したベーアは、現代においてこそ、もっとも注目されるべき科学者の一人である。