現実は、とても残酷だ。でも現実は、とっても美しい。
未来を見つめて、いまを直視できない私たちへ。
グリーンランドの世界最北の集落シオラパルクから、結氷した海峡を犬ぞりで渡る壮大な旅をしようとしていたのに、新型ウイルスのせいでカナダの入国許可が取り消され、旅ができなくなってしまった! 氷に囲まれた小さな村にいる間に、世界は一変してしまったらしい。
だが、感染症によってもたらされた明日をも知れない世界は、角幡唯介が探検によって求めてきた世界の姿と似たところがあるーー。
■北極圏で生き抜いてきたイヌイットの知恵
シオラパルクのイヌイットは、農業ができない土地で、数千年ものあいだ狩猟による生活をつづけてきました。彼らと同じ生活をしてわかった、厳しい世界と向き合う方法。その秘密は、イヌイットが口癖のように言う「ナルホイヤ」という言葉に秘められていました。
この「ナルホイヤ」という言葉から、イヌイットが厳しい環境を生き抜いてきた知恵をうかがい知ることができます。
■狩りと漂泊の旅
前時代のイヌイット猟師のように、食料をほとんど持たず犬ぞりで移動し、狩りの獲物だけを頼りに2カ月ものあいだ旅行をする。そこには、日本の都市での「安全な」暮らしとは対照的な世界が広がっています。
狩りとは、旅とは、生と死、偶然と運命とはーー明日の食べ物があるかどうかもわからず、ときに野生動物に襲われかけながら、狩りと旅をした経験から、角幡唯介が考え、発見したことを、軽やかな筆致で語っています。
いつもと同じ生活が、少しだけ違った景色に見えてくる。そんな一冊です。
コロナ以後と未来予期
死が傍らにある村
ナルホイヤの思想
計画と漂泊
モラルとしてのナルホイヤ
偶然と調和
死んだ動物の眼
あとがき