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ずっと逃げてきた。見つめることが怖かった。
家族とも友人とも、自分自身の過去とも向き合えない。
冷たい隙間風に吹き付けられた魂は、どこに流れ着くのかーー。
脚本・監督:阪本順治×主演:伊藤健太郎「自分はもう、失うものはなにもない」内面をさらけ出した芝居が新たな傑作を生みだす。
■“アグレッシブな円熟期”を迎えた鬼才・阪本順治監督が、若手俳優・伊藤健太郎のためオリジナル脚本をアテ書き。
60代に入ってますます旺盛な創造性を発揮し、名実ともに日本映画界を牽引する映画監督・阪本順治。
今まさに“アグレッシブな円熟期”を迎えたこの鬼才が、40歳も年下の若手俳優・伊藤健太郎のために書き下ろしたオリジナル新作、それが本作『冬薔薇(ふゆそうび)』だ。
本作のシナリオを書き下ろすにあたり、阪本監督は伊藤と初めて対面し、数時間かけて話を聞いた。
生い立ち、家族や友人との関係、仕事観。そして順風満帆だった役者人生を暗転させた過ちと、その後の生き方について。
渡口淳という主人公のキャラクターには、このとき阪本が感じた匂いや気配、独特の佇まいなどが色濃く反映されている。
もちろんフィクションには違いない。だがこの物語には、伊藤健太郎という俳優がこれまで見せてこなかった表情ーー
ある種の未熟さや、寄る辺のなさも引っくるめたリアルな存在感が、たしかに刻み込まれている。
伊藤もまた「自分はもう、失うものはなにもない」という強い気持ちで、監督の思いに応えた。虚栄心と不安。軽薄さと孤独感。
どうしようもない身勝手さと、子どものように愛情を欲する心。相反する感情に揺れる眼差しが、言葉以上の何かを訴える。
1989年のデビュー作『どついたるねん』以来、阪本は一貫して心にさまざまな「欠損」を抱えた人間を描き続けてきた。
『冬薔薇』には、そのモチーフがもっともストレートかつ生々しく顕れている。
ソリッドな原点回帰と、ベテランならではの滋味を兼ね備えた新境地。
名声も技術もすべて捨て去り、内面をさらけ出した伊藤健太郎の演技によって、阪本順治監督のフィルモグラフィーに新たな傑作が加わった。
■阪本組常連から若手まで日本映画界を代表する実力派が集結。絶妙のアンサンブルが織りなす「寄る辺なき者たちの物語」。
俳優としてゼロに戻り、ただひたすら「芝居ができる幸せ」をかみ締めた本作の伊藤。
その周りを固めたのは、日本映画界きっての実力派たちだ。
淳の父親で、日本の高度成長期を支えたガット船「渡口丸」の船長でもある渡口義一を演じたのは名優・小林薫。
忙しさにかまけて息子と向き合わず、今さらどうしようもない溝を作ってしまった男の弱さと哀しみ、うちに秘めた思いを、これ以上ないほどの愛情を持って体現している。
その妻で、会社の事務を取り仕切る渡口道子役は余貴美子。生来のバイタリティーと、長い結婚生活で染み付いた徒労感。
相反する要素が自然に溶け合った佇まいが観る者を捉えて放さない。
また「渡口丸」最年長の機関長で、実は淳のよき理解者でもある沖島達雄役には、昨年傘寿を迎えた石橋蓮司。
飄々としたセリフ回しと身体中から滲み出るオカシミで、物語を温かく彩る。
さらに俳句好きの航海士・永原健三役は伊武雅刀。
最年少55歳の甲板員・近藤次郎役は、笠松伴助。
失業して「渡口丸」に雇ってもらう淳の叔父・中本裕治役には眞木蔵人。
狭い「渡口丸」の船内で繰り広げられるベテランたちのアンサンブルは、本作『冬薔薇』のもう1つの見どころだ。
淳が所属する不良グループのリーダー・美崎輝役には、若手のホープである永山絢斗。
下の者にはキレやすく、兄貴分には媚びへつらう今どきの不良像を見事に演じてみせた。
その他にも毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、和田光沙、佐々木宝など、若手注目株たちが集結。
それぞれが心に「欠損」を抱えた、寄る辺なき者たちの群像劇を織り上げている。
冬に咲く薔薇と書いて「ふゆそうび」。よくある再生の物語ではない。わかりやすい成長も描かれない。
だが、冷たい冬の風のなかで健気に咲いた花にも似た何かが、このフィルムにはたしかに宿っている。
オールロケ撮影で切り取られた横須賀の風景が、それを美しく彩る。※デザイン・特典及び仕様はすべて予定です。発売時には予告無く変更になっていることがあります。
また特典と仕様は各作品ごとに異なります。ご了承ください